いつか、君と… 8
「うち……静瑠さんの声を聞いたんです。その声に振り向いたら殿さまで……でも、それが殿さまやない気がした時に、桜が……」
ことはは自身に起こった事を伝えようとしたが、考えがまとまらず、言葉に詰まってしまった。
静瑠は、そんなことはに顔を緩めると、彼女とは反対側の桜に背を預け瞳を閉じ、言葉を繋いだ。
「桜が……君を連れて来たのかもしれない。……この桜は私の喜びも悲しみも知っている。私の友のような存在だ。だから、きっと……きっと、君を連れて来てくれたのだろう」
「静瑠さん?……それはどういう……」
ことはが静瑠に『どういう意味なのか』聞こうとした時だった。
「静瑠様!!表に外道衆が現れました!!……ドウコクの姿も確認致しました」
その声に、静瑠に緊張が走った。
ことはが、その声の方へと振り返ろうとしたが、それを静瑠の手が止めた。
「君はこのまま、元の世に帰るんだ。きっと…この桜が君を戻してくれるはずだ」
「このまま戻るなんて……、うちも一緒に……」
そう言ったことはの手を、静瑠の大きな手がそっと包み込み、強く握られると、ことははそれ以上何も言うことができなかった。
「日下部、侍達は集まっているのか?」
「すでに、変身されてナナシ連中と闘っております。静瑠様も急ぎ表の方へ」
「わかった。お前は先に侍達の元へ行け。私もすぐに行く」
日下部と呼ばれた男は、「はっ」っと頭を軽く下げると、すぐさま屋敷の中へと戻っていった。
それを見届けると、静瑠は握っていたことはの手を離し、屋敷へと足を踏み出した。
「静瑠さん!!」
ことはの悲痛な声がその場に響いた。
その声が静瑠の足を留めた。
「君の名前を……まだ、君の名前を聞いてなかった」
「こ、ことは…です。うちは花織ことはって言います」
自分の名を言うことはの声は震えていた。
「花織……ことは。いつか、君と…………否、君は君の『殿さま』と幸せになって欲しい。私はそのためにも、この世を守る。人々のために、そして、君の住まう世のために……」
そう言うと、静瑠は、屋敷へと向かい留めていた足を再び動かした。
ことはは、そんな静瑠の姿を、瞳に涙を溜め、ただ眺めていることしが出来なかった。
そして、握られた手に、もう片方の手を添えながら……丈瑠を想うのだった。
☆次回、最終回となります(予定)。そして、長編に続けたいと思います。その間にかなり過ぎてしまいましたが、バレンタインの話なんかも描ければ・・・と考えています。では、最後までお付き合いください☆
☆sin様、いつもありがとうございます!!☆
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