あなたの隣にいるために 最終話
☆ようやく最終話です☆
「流さん、ごめんなさい!!うち、思わず…自分と重ねて、あんなん言うて……。うちが美人やなくてお嬢様やないんは、ほんまやけど、茉子ちゃんは、美人やし、ほんまもんのお嬢様で、流さんには絶対お似合いで……」
流ノ介の想い人が茉子で、その茉子も流ノ介を想っている。
近い将来、流ノ介の隣に茉子がいるわけで、その時に、自分のせいで、茉子の良くない噂が梨園に流れるのでは…と、ことはは慌てた。
「ほんまは、ちゃんとした彼女がいてるって、今の方に言った方が……」
「その必要はないだろう。だいたい、ことはが謝る必要もない」
その声は、ことはの隣からではなく、背後から聞こえた。
低く、良く通る声。
毎日聞いているのに、その声が耳に入ってくるだけで、幸せな気持ちになれる……自分より大切な人の、凛とした涼やかな声。
「殿さま!?」「殿っ!!」
ことはと流ノ介は、振り返ると同時に主の名を叫んだ。
「流ノ介、いつまでことはの手を握っている?」
丈瑠の言葉に、流ノ介の視線が自分の手へと向かうと、一瞬固まった後、真っ青になり慌ててその手を離した。
「殿、これは…あの、その…違うんです!!あの、指輪がですね、ことはの指に…その、結婚指輪がしてあって……」
「ことはの指に結婚指輪がしてあるのは当たり前だ。逆にしてなければ問題だろ」
慌てふためく流ノ介の元へ、丈瑠は歩み寄ると、固まったまま動けないでいることはの手を取り、「あまり長く待たせるな」…と、一言、流ノ介の耳元でそう呟き、その場を後にした。
「……とりあえず、血、見ないで済んで良かったな、流ノ介。」
丈瑠の姿が小さくなった頃に、千明は、呆然と立ち尽くす流ノ介の横に立ち、そう呟くと、反対側には源太が立ち、流ノ介の肩に手を置き、大袈裟に頭を上下させた。
「殿さま…あの……」
丈瑠にさらわれた状態になってしまったことはは、小さな声で丈瑠へと話しかけた。
いつもとは違い、自分の歩幅に合わせることもなく、強引に歩みを進める丈瑠が、自分を怒っているのだとことはは思っていた。
「すみませんでした。殿さまとの約束…破ってしまって、ほんま…うち……」
ことはは目に涙を溜めながらも、泣かないように…と必死に堪えながら、謝罪を口にした。
「ことは……」
ことはの声が耳に届くと、丈瑠は歩みを止め、後ろを振り返ると、彼女の名を呼んだ。
「だから……お前が謝ることはないだろう?約束を破ることになったのは、流ノ介に捕まったからであって……」
「違います。確かに、流さんのことも…ありますけど、でも、ほんまは、違うんです」
ことはは珍しく、大きな声を出し、丈瑠の言葉を遮った。
「ほんまは、逃げたんです」
「逃げた?」
丈瑠は一瞬、眉間に皺を寄せ、ことはの手を繋いでいる自身の手に力を込めた。
「綺麗な人が…殿さまに話しかけてるの見て、うち…なんかが、殿さまの隣におってええのかな?って。周りの人も…そう思ってるんやろなぁ……って。そう思ったら、うち、殿さまに背、向けて走ってて……でも」
「『うちなんか』なんて、言うなことは!!」
今度は丈瑠がことはの言葉を遮り、低い声を更に低くし、怒鳴った。
ことはは、その声に肩をビクッ…とさせ、俯くと、涙を一粒、また一粒と石畳の上へと落とした。
それを目にした丈瑠は、大きなため息を一つ吐くと、大きな声を出してすまなかった…と、ことはへと謝った。
「だがな、ことは。自分なんか…なんて言わないでくれ」
そう口にすると、丈瑠はことはを優しく、自身の腕の中へと包み込んだ。
「どんなに金持ちで美人だろうと、周りが何と言おうと、ことは……俺にはお前しかいない。お前しか見えない」
……お前は自分を知らなさ過ぎる。
その純真な笑顔に、どれだけの男が見とれているか。
その優しさに、俺だけでなく、爺や黒子、千明や源太…きっと流ノ介に茉子だって癒されていることだろう。
……無垢な優しさ、美しさに…知らない奴ですら、瞬時に惹かれてしまう。
だから、婚約者になってくれなどと言われてしまうんだ。
「それとも、お前は俺を信じられないのか?」
「そんなこと……信じられないなんて、絶対にないです!!ほんまは、うち…殿さまのところに戻ろうって……、ほんま、そう思ったんです。それやのに…千明と源さんが隠れてて、流さんに見つかっちゃって……それで、それで……」
「ことは、もう…いい。わかったから、もう泣くな」
丈瑠は優しく包み込んでいた腕に力を入れると、ことはの涙を自身の胸で受け止め、ことはにそれ以上の言葉を繋げさせることはなかった。
『ことはは…妻は、全身をブランドで着飾らなくとも、何層にも顔を塗りたくらなくとも、可愛いらしく、魅力的で……でも、強くて。俺は、そんな妻しか目に入らないし、入れるつもりもない』
あの後、丈瑠は、その場にいた誰にでも聞こえるように、大きな声でその言葉を吐き捨てると、鼻息荒く、颯爽とその場を去っていった。
残された女性に対し、丈瑠は一度も振り返ることはなかった。
……もしあの場にお前がいたなら、どうしただろうな?
きっと、お前を馬鹿にするような相手だろうと、庇うんだろうな。
俺は、きっと…そんなお前の態度に、少し嫉妬して、そして更に愛しく思うだろう。
「もう……逃げるなよ、奥さん」
いつにも増して艶っぽい丈瑠の声に、ことはは、丈瑠の胸に埋めた顔を真っ赤にし、小さく頷いたのだった。
~ 終 ~
☆今回、(私にしては)長くなりましたので、コメントのお礼&お返事は次回、書かせて頂きたいと思います。遅い更新ながらも、最後までお読み頂きありがとうございました☆
「流さん、ごめんなさい!!うち、思わず…自分と重ねて、あんなん言うて……。うちが美人やなくてお嬢様やないんは、ほんまやけど、茉子ちゃんは、美人やし、ほんまもんのお嬢様で、流さんには絶対お似合いで……」
流ノ介の想い人が茉子で、その茉子も流ノ介を想っている。
近い将来、流ノ介の隣に茉子がいるわけで、その時に、自分のせいで、茉子の良くない噂が梨園に流れるのでは…と、ことはは慌てた。
「ほんまは、ちゃんとした彼女がいてるって、今の方に言った方が……」
「その必要はないだろう。だいたい、ことはが謝る必要もない」
その声は、ことはの隣からではなく、背後から聞こえた。
低く、良く通る声。
毎日聞いているのに、その声が耳に入ってくるだけで、幸せな気持ちになれる……自分より大切な人の、凛とした涼やかな声。
「殿さま!?」「殿っ!!」
ことはと流ノ介は、振り返ると同時に主の名を叫んだ。
「流ノ介、いつまでことはの手を握っている?」
丈瑠の言葉に、流ノ介の視線が自分の手へと向かうと、一瞬固まった後、真っ青になり慌ててその手を離した。
「殿、これは…あの、その…違うんです!!あの、指輪がですね、ことはの指に…その、結婚指輪がしてあって……」
「ことはの指に結婚指輪がしてあるのは当たり前だ。逆にしてなければ問題だろ」
慌てふためく流ノ介の元へ、丈瑠は歩み寄ると、固まったまま動けないでいることはの手を取り、「あまり長く待たせるな」…と、一言、流ノ介の耳元でそう呟き、その場を後にした。
「……とりあえず、血、見ないで済んで良かったな、流ノ介。」
丈瑠の姿が小さくなった頃に、千明は、呆然と立ち尽くす流ノ介の横に立ち、そう呟くと、反対側には源太が立ち、流ノ介の肩に手を置き、大袈裟に頭を上下させた。
「殿さま…あの……」
丈瑠にさらわれた状態になってしまったことはは、小さな声で丈瑠へと話しかけた。
いつもとは違い、自分の歩幅に合わせることもなく、強引に歩みを進める丈瑠が、自分を怒っているのだとことはは思っていた。
「すみませんでした。殿さまとの約束…破ってしまって、ほんま…うち……」
ことはは目に涙を溜めながらも、泣かないように…と必死に堪えながら、謝罪を口にした。
「ことは……」
ことはの声が耳に届くと、丈瑠は歩みを止め、後ろを振り返ると、彼女の名を呼んだ。
「だから……お前が謝ることはないだろう?約束を破ることになったのは、流ノ介に捕まったからであって……」
「違います。確かに、流さんのことも…ありますけど、でも、ほんまは、違うんです」
ことはは珍しく、大きな声を出し、丈瑠の言葉を遮った。
「ほんまは、逃げたんです」
「逃げた?」
丈瑠は一瞬、眉間に皺を寄せ、ことはの手を繋いでいる自身の手に力を込めた。
「綺麗な人が…殿さまに話しかけてるの見て、うち…なんかが、殿さまの隣におってええのかな?って。周りの人も…そう思ってるんやろなぁ……って。そう思ったら、うち、殿さまに背、向けて走ってて……でも」
「『うちなんか』なんて、言うなことは!!」
今度は丈瑠がことはの言葉を遮り、低い声を更に低くし、怒鳴った。
ことはは、その声に肩をビクッ…とさせ、俯くと、涙を一粒、また一粒と石畳の上へと落とした。
それを目にした丈瑠は、大きなため息を一つ吐くと、大きな声を出してすまなかった…と、ことはへと謝った。
「だがな、ことは。自分なんか…なんて言わないでくれ」
そう口にすると、丈瑠はことはを優しく、自身の腕の中へと包み込んだ。
「どんなに金持ちで美人だろうと、周りが何と言おうと、ことは……俺にはお前しかいない。お前しか見えない」
……お前は自分を知らなさ過ぎる。
その純真な笑顔に、どれだけの男が見とれているか。
その優しさに、俺だけでなく、爺や黒子、千明や源太…きっと流ノ介に茉子だって癒されていることだろう。
……無垢な優しさ、美しさに…知らない奴ですら、瞬時に惹かれてしまう。
だから、婚約者になってくれなどと言われてしまうんだ。
「それとも、お前は俺を信じられないのか?」
「そんなこと……信じられないなんて、絶対にないです!!ほんまは、うち…殿さまのところに戻ろうって……、ほんま、そう思ったんです。それやのに…千明と源さんが隠れてて、流さんに見つかっちゃって……それで、それで……」
「ことは、もう…いい。わかったから、もう泣くな」
丈瑠は優しく包み込んでいた腕に力を入れると、ことはの涙を自身の胸で受け止め、ことはにそれ以上の言葉を繋げさせることはなかった。
『ことはは…妻は、全身をブランドで着飾らなくとも、何層にも顔を塗りたくらなくとも、可愛いらしく、魅力的で……でも、強くて。俺は、そんな妻しか目に入らないし、入れるつもりもない』
あの後、丈瑠は、その場にいた誰にでも聞こえるように、大きな声でその言葉を吐き捨てると、鼻息荒く、颯爽とその場を去っていった。
残された女性に対し、丈瑠は一度も振り返ることはなかった。
……もしあの場にお前がいたなら、どうしただろうな?
きっと、お前を馬鹿にするような相手だろうと、庇うんだろうな。
俺は、きっと…そんなお前の態度に、少し嫉妬して、そして更に愛しく思うだろう。
「もう……逃げるなよ、奥さん」
いつにも増して艶っぽい丈瑠の声に、ことはは、丈瑠の胸に埋めた顔を真っ赤にし、小さく頷いたのだった。
~ 終 ~
☆今回、(私にしては)長くなりましたので、コメントのお礼&お返事は次回、書かせて頂きたいと思います。遅い更新ながらも、最後までお読み頂きありがとうございました☆
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