いつか、君と… 最終話
……本当は、いつか……否、この戦いが終わったら、庭の桜を君と見たい……そう思った。
そう、伝えたかった。
初めて、心から人を想った。
一目見た時に、何故か懐かしい思いに駆られた。
「日下部、現状は?」
「なんとか、屋敷の表にて侍達が外道衆の攻撃を迎え撃っているところでございます。ですが、長くは持たないでしょう」
静瑠は、屋敷の中にて黒子と話していた日下部に声を掛けた。
「殿は?」
「既にこちらへと向かわれているとの事です」
「そうか……。なんとしても殿が来られるまで持ちこたえるのだ」
静瑠はそう言うと、シンケンレッドへと変身をし、侍達の元へと向かおうとした。
「静瑠様、よろしかったのですか?」
その足を日下部の言葉が留めた。
静瑠には、その言葉だけで日下部が何を言いたいのかわかった。
「ああ」
そう一言だけ答えると、日下部もそれ以上は口を開くことはなかった。
「うちは……このまま殿さまの元に戻ってもええんやろか?」
ことはは、目の前の桜にそう問いかけた。
もちろん、桜がそれに答えることはなかった。
だが、この世界に自分が関わってはいけないであろうことはわかっていた。
もし静瑠の運命を変えてしまったら、その先にあるはずの未来が変わってしまうかもしれない。
それは、丈瑠の未来かもしれない。
そう考えると、ことはは意を決したように瞳を閉じた。
……うちは、殿さまの元に帰らな……。
絶対に、殿さまの元に。
うちにとって一番は殿さまやから。
殿さまがおらな、うちが生きる意味がなくなってしまうんやから。
そう心で誓った刹那、こちらの世界へと連れて来られた時と同じような突風がことはを包んだ。
と同時に、赤い閃光が屋敷の先より天へ向かって真っすぐに伸びた。
「静瑠さん!!」
ことはは、その閃光を瞳に捉えると、すかさず静瑠の名を叫んだ。
『こと…は…………』
その叫びに、静瑠の返事が聞こえたようにことはには思えた。
その声は、穏やかで、優しく……でも、弱々しくて。
命の灯が間もなく消えようとしているのが伝わってきて、ことはは大きく見開いた瞳に涙を溜めた。
「静瑠さん……桜が、舞ってはるの、見えますか?」
志葉の屋敷を幻影の桜の花びらが舞っていた。
……それは、きっと桜の静瑠への想いだったのだろう。
彼の最期の願いを桜は聞いてくれたのだろうと、ことはには思えてならなかった。
再びことはは瞳を閉じると、ふわりと温かいものが自身を包んだ。
それは、よく知る……温もり。
……あぁ、帰って来れたんやなぁ。
ことはは頬を伝った涙をそっと拭うと、その温もりに身を任せた。
「……とは、ことは……」
丈瑠は、名を呼んでも返事をしないことはを不思議に思い、抱きしめた腕を解き、覗き込もうとした。
「……殿さま、そのままで。もう少し、このままでいたいんです……」
ことはは、自身に起こった事を、丈瑠の腕の中で思い返していた。
桜の舞う中で丈瑠と同じ運命を背負った静瑠に出会った。
生まれた時より、いや…生まれる前より決められていた、影武者としての運命。
そして……その運命に倣い、命を散らせた静瑠。
今、自分を包むこの腕も、もしかしたら無くしていたかもしれない。
この温もりが夢ではない……ともっと体に、心に刻みたい。
なのに、何故だろう、この温もりが消えてしまうのではないかという不安。
元の世に戻ってこれたのに、拭えぬ不安。
『『火』のモヂカラを受け継いで生まれし者の宿命』
この言葉が、ことはの頭の中をぐるぐると回っていた。
静瑠に聞くことが出来なかった、その言葉の意味を知りたい。
いや、知る必要がある。
丈瑠とともに、志葉としてこの先も共に歩んでいくために。
それでも今は、この温もりに、もう少し包まれ、静瑠を、そして丈瑠を想いたい。
ことはは、そう心で呟くと、再び瞳を閉じ、先程舞っていた桜の花びらを懐かしく思うのだった。
~ 終 ~
☆この話はこれにて終わりとなります。……が、長編へと続きます。何故、殿さまがモヂカラを持って生まれたのかを書いていこうと思います(今回書けず、すみませんでした)。では、長編で再びお会いしましょう☆
☆sin様、次回の長編は再びシリアスモード突入です。楽しんで頂けると良いのですが・・・。いつも、ありがとうございます☆
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